若き歯科医師たちへ--第1編--
「あなたの目標は何ですか?」
「歯科業界の現状をどこまで理解していますか?」
「自分の立場に甘えていませんか?」
「本物の診療を見てますか?」
「尊敬するホンモノの師はいますか?」
「自分の診療を見直したことがありますか?」
「あなたの診療に学問的な裏付けはありますか?」
ここでは、これから歯科医師として活躍する可能性を持った若き歯科医師達へ、私自身の歩んできた経験をもとにメッセージを送りたいと思います。そして将来、同士として患者さんの口腔健康の向上のために共に活躍できることを 期待しております。
「卒業後まもない新人歯科医師達へ」
歯科医師免許取得おめでとうございます。おそらく皆さんは、ここを目標 に学生生活を送ってきたことでしょう。しかし勘違いしないで下さい。皆さ んは、免許を取得しただけで、特に何も出来ないと言うことです。知識だけ は十分ですが、技術に関しても経験に関しても素人同然と言うことを肝に銘 じて下さい。そして、免許取得の次に来る新たな目標を持って下さい。この 時期は、免許取得という夢を実現したと言うことで、次なる目標がすぐに決 まらなければ、毎日時間ばかりが過ぎていってしまいます。私自身も、「歯科 医師になること」を目標に幼き頃から努力してきて、実際にそれがかなっ てしまったとき、次の目標が半年間見つけられず、時間ばかりが過ぎてい きました。
「あなたの目標は何ですか?」
目標には「さしあたっての目標」から「将来的な目標」まで、いろいろ持 つべきだと思います。そして目標に向かって最大限の努力をしましょう。 将来は「開業医になりたい」「研究者になりたい」「専門医になりたい」など 自分の目指す目標ですから、その選択は自由です。さしあたっては「保険点 数を理解したい」「カルテを書けるようになりたい」「担当患者さんに満足の いく治療をしてあげたい」など、これも自由です。目標以外の行動は、必ず しも無駄だと思わないで下さい。今しかできないことだと前向きに捉えまし ょう。ちなみに私の目標は「オールマイティーな開業医になりたい」と言う ありふれた目標でした。
「あなたは卒業後、大学に在籍していますか?」
私は卒業後すぐ大学に研修医として在籍しましたが、研修プログラムを消化 しながら一年間は、医局の雑用と遺伝子をいじる実験、外来で講師や教授の アシスタントや技工をしていました。「何でこんな無駄なことばかりしなく ちゃいけないんだよ!」とか、「歯科医師になったのにアシスタントかよ!」 って思ったこともありました。卒業後すぐ開業医に勤めた友人達に会った際に は「もう抜歯もしたよ」とか「ブリッジ形成できるようになったよ」とかっ て言われて、自分との差が開くような気がして、正直焦る毎日でした。でも 毎日与えられたことしかできないんです。そこで、前向きに考えるようにし ました。
「経験豊富な先生達の診療を、アシスタントという絶好のポジションから 毎日覗けるから、おいしい」とか「雑用をしながら同期と愚痴を言い合える 時間があってストレス発散が出来る」とか「実験を成功させて将来は学位も 目指そう」・・・我ながらかなり前向きだったと思います。
今思えば、これらの全ては決して無駄ではなかったと思います。同期や後 輩など今でも仲がいいし、実験はトレンディーな内容だったこともあり、大 学院に行った友人達の実験に関する会話内容も理解できるようになったし、 ベテラン歯科医師の治療をいっぱい見て自分の考えにフィードバックして考 えるようなことが出来ましたから。
今の若者は、「損得でしか物事を考えられない」「自分の利益になること以 外は興味を示さない」「上下関係など、人付き合いが下手」だって、そんなに 歳の差がない僕でもそう思います。こういう人間は伸びないですよ。
「あなたは勤務医ですか?」
毎日ご苦労様です。安い給料で休みも少なく、同年代のサラリーマンより も毎日きつい思いをしていることでしょう。同情します。でも、あえてうか がいます。「今の治療術式はそれが絶対に正しいですか?」「誰に教わったん ですか?ホンモノと言える師から教わったものですか?」「技術の未熟さを 会話でごまかしていませんか?」「自分の給料の中から本を何冊も買って読 んでいますか?」「このまま開業する気ですか?」「治療に結果が伴っていま すか?」
実は、卒業後進むこのルートは開業を目標としているならば一番危険だと私 は思います。 このルートは、「ホンモノ」と呼べるいい師についた場合、大学以上に勉強 になります。しかしそういった「師」は全国にも数少ないでしょう。従って ほとんどがそういう存在に触れることがないまま勤務医生活を過ごしてしま っているのです。さらに、このルートは毎日診療で治療に携わっているでし ょうから比較的何でも出来るようになるのが、大学よりも早いです。そして 陥りやすい「勘違い」を起こしてしまうんです。「もう自分は何でも出来るか ら開業しても大丈夫」って。私に言わせてみればそれは「歯科医師として、 一通り手が動くだけで、その精度も完成度も最低限に過ぎない」と言うこと です。残念ながら「ホンモノ」と呼べるような歯科医師には歯が立たない、 そういう歯科医師人生を過ごして終わりです。「ホンモノと言われる師がいますか?」
少なくても開業を考えるならば「補綴・ペリオで二人の師」が必要です。 自分の経験から疑問に思っていることに学問的な裏付けと臨床結果の裏付け の両面からこたえてくれる存在。またはその方向性を指導してくれる存在。 何も「師」の真似をすることばかりが目的ではなく、「師」の意見を自分の臨 床に反映して、より良い臨床を探し出すヒントとすることも出来る存在。「師」は、本の中にいてもいいと思いますが、本ではその「神髄」は盗めませ ん。その辺は気を付けて下さい。
私には幸い「3人の師」が存在します。楽して技は盗めません。時には雑 用に追われ、時には深夜までお酒を飲み交わし、時には叱られ、時にはプラ イベートを犠牲にする。苦労だらけです。しかしそれに見返ったものを吸収 しましょう!極端な場合、無給でもいいから学ぶ、そのくらいの気構えが必 要です。「師」からの教え「自分の経験と勉強・オリジナリティー・時代背景」 そこから将来的な「歯科医師象」を見つけだすことが大事だと思います。 「給料を下さい」「臨床を教えて下さい」そんな虫のいい話はありません。 「無給覚悟」でも「ホンモノ」を見に行って下さい。「無給」であれば見学自 由という所は多いはずです。
「あなたは一代目ですか?二代目以降ですか?」
私自身がそうであるように、一代目は何事も大変です。身近に「師」が存 在しないからです。右も左も業界のことが分からないところからのスタート は、圧倒的に不利です。従って、人付き合いを大切にしましょう。ただ不利 を不利と思ってはいけません。人一倍苦労する分、ハングリーなはずです。 それがあなたを成長させるはずです。共に頑張りましょう。
さて、二代目以降の皆さん。羨ましいです。後継ぎとして期待されている ことでしょう。あなたには、ゆっくりそしてじっくり勉強できる環境が整っ ているはずです。しかしそこが落とし穴です。親以外にも「師」を見つけ、 成長しなければ親を越えられませんよ。そして毎日「のほほん」と過ごして いると、アッという間に周りに取り残されてしまいます。またこれからの時 代を生き抜く「独自の経営学」も学んで下さい。「親から学ぶ経営学」は、「よ き時代の経営学」で、もはや通用しない時代に突入しているのです。 また、「親の患者さん」が自分にも付いてきてくれるとは限りません。そうい うプレッシャーにうち勝つ努力をして下さい。
歯科医院作りには「システムの確立」が重要
これから開業を考えている先生に、言っておきたいことがあります。 歯科医院作りには、しっかりとした「システムの確立」が重要だということです。私の知る歯科医院の中で、周辺に歯科医院が密集しているにもかかわらず、大変流行っているようなところはすべて、しっかりとしたシステムが確立されているという共通点があるということに気がつきました。
ではシステムとは一体どういうことでしょうか?
項目としては、
・ 院内の構造
・ 治療方針
・ 治療姿勢、患者さんへの対応
・ ドクターとスタッフの言動
・ 歯科機材
・ 経営方針
と、たったこれだけなのですが、これらすべての項目が一体化しているという感じを受けるのです。しかしこれが実に難題なのです。
たとえばA歯科医院
(村で一件の歯科医院ですが、周辺町村にはもちろん歯科医院があり、決して環境としては恵まれている感じは受けません。)
院内の構造は、狭く至ってシンプルですが、大変効率よく患者さんの治療が行えるようなユニットの配置をしています。従って、患者さんの動きスタッフやドクターの動きに無駄がなく、短時間でどんどん治療や衛生指導が行えるようなシステムが確立されております。機材も、あれこれ取りに行くような感じではなく、手の届く範囲に何でもそろっており、そのぶん数もしっかりと揃っております。治療方針も田舎らしく至ってシンプルで、主訴の手短な解決をメインとしつつも、衛生指導に力を入れスタッフを患者一人一人に担当させ、予後管理も行っております。院長の指示一つで手際よくスタッフが動くのがとても印象的でした。
続いてB歯科医院
(中央区の激戦区で古くからある歯科医院、抱えている患者数は相当数)
院内の構造は、プライバシー重視でしっかりとユニット間は仕切られております。最短でも一人に40分かけ、まずは治療前に担当衛生士との衛生管理から始まります。患者さんと一対一でしっかりと向き合い、治療や症状に対する不安や相談を聞き入れ、しっかりと解決することから、治療が始まります。機材類も質量ともに充実しており、ものを取りに行くのにスタッフが患者さんから離れるという無駄な時間がないようになっております。そして治療も、見事な流れの中で行われていきます。もちろん予後管理も患者さんの意志で、検診を受けるような患者教育がしっかりとなされております。スタッフ全員が患者さんの話に耳を傾ける姿勢ができています。
当院の場合・・・同業相手には企業秘密です。教えられません。
ただし、当院のシステムは高評価をいただいているようで、毎月50人ほどの新患患者さんが来院しております。正直、業者さんにも疑問を持たれるほど開院場所としては決して恵まれてはいません。
こういった例を挙げましたが、開業前に自分は歯科医師としてどういう診療スタイルをとろうと思っているのか?それは、地域の需要に合っているものなのか?そう言うところから入る必要があると思われます。一般的に、誰もが予防を中心とした歯周病管理を行い、口腔内の健康管理に努めると行ったすばらしい目標を掲げつつも、実際は、そういったスタッフ(人材)や診療機材を揃えぬまま、開院日を迎えてしまうというのが現状なのです。やりながらシステムを構築していけばいいと思っていても、毎日の診療の中では、そう簡単にはいかないし、機材もすでに配置されてしまっているし、スタッフの統制がとれないどころかスタッフが迷ってしまうのです。こういう不安定なシステムは患者さんにも伝わってしまいます。反面、システムが整っている歯科医院の場合、そのシステムに乗った患者さんは、離れがたい歯科医院としてその医院を認めてくれます。人間誰もがシステムからそれることを嫌います。もちろんそのシステムが理にかなっていなくてはなりません。強引にシステムに乗せるのではなく、システムにいつの間にか乗っていた・・・という感じができるのが理想でしょう。私の見る限り、流行っている診療所ほど、そういったシステム作りがなされている感じがあります。私は、三年ほど前から医業経営コンサルタントが発信しているメールマガジンを見ていますが、ここ二年くらいは他院との差別化など、このような話題ばかりが取り上げられております。新規開業者は、開業が目的ではありません(ここが一番間違えやすいところ!)。医療従事者として地域に親しまれ続けることが目的であることを見失ってはいけないと思います。そのためにはどういうスタイルでの開院が望ましいか、しっかりと熟考し準備すべきでしょう。もちろん、流行っている歯科医院を見学することも準備の一つだと思います。ただし見学目的は、治療見学ではなく「診療システム」の見学をするということはいまさら言うまでもないでしょう。
かなり漠然とした内容になってしまいましたが、厳しい環境とはいえ、若き歯科医師の方々へは、今後もさりげなくメッセージを伝えていこうと思います。
診療室作りに関して
最近では当院のシステムを参考にしようと、開院を控えた先生たちが見学に来ております。その一つは、完全デジタル化した装置一式と、その使いこなし方です。当院ではデジタル化のメリットを最大限に活かし、診療に役立てております。その辺を知りたいという希望者が多いようです。この辺は実際に来られた方にしかそのノウハウは伝えられません。また、もう一つは医院の設計です。いま患者さんの動きとスタッフの動きが、極力重ならないように「動線分離」などという考えが多くなっていることはご存じでしょうか?
私も開院前の設計段階では、この考えに同意し設計に組み込もうとしました。しかし、設計や構造上の制限からやむを得ず諦めることになりました。テナント開業においても導入できない先生が多いことと思われます。
どちらにも一長一短があります。たとえば分離が可能となった場合、患者さんから見えない部分が診療室に多く出ます。そうなると片づけ等でスタッフに油断が発生する可能性があります。そしていざレントゲン室へと移動をする際に患者さんの目にとまってしまうことがあるので要注意です。どちらかに決まった場合、最大限長所を伸ばすことを考えるべきだと思います。
私の場合、分離ができなかったわけですが、そのぶん通路を広くとったり、ユニット周りのスペースを広くとったりしています。また患者さんが通るところは、収納を多くして極力清潔感がアピールできるように配慮してみました。
さらに待合室ですが、ここにも患者さんへの配慮が見られるように工夫しております。絵や花を飾るのは一般的ですが、斬新感にかけます。当院では「緑と水」がテーマの癒し空間を意識しました。緊張感の高まった状態での待合室待機は、歯科治療に対する緊張感を増幅させます。壁中いっぱいにポスターを貼ることは品を落とします。かといって診療に対するアピールも必要不可欠です。したがって、その辺のバランスには十分に気をつける必要があると思われます。
最後に余談ですが、医院名は重要です。今のところ特に変な物でなければどんな名前でも使えますが、なるべく院長の名前を歯科医院名に入れるべきだと考えます。なぜなら、この医院は雇われ院長がノルマで仕事をしている分院ではないということをアピールするにはもってこいだからです。今の時代、雇われ院長でコロコロ先生の替わる医院には、患者さんは寄りつこうとしません。(もちろんそう言う医院では、院長名を医院名に用いることができません。)カタカナで遊び心を持ったネーミングもしかりです。自身で開院するなら堂々と、院長名を使うべきだと考えます。来院患者に責任感を無意識のうちに与えると考えます。書体にも気をつける必要があります。最近流行の丸文字は、好感度が持てません。小児歯科だったらいいかもしれませんが、中年や老人はこういう書体に理解を示さないと思われます。私は漢字でカチッとしたイメージの書体としましたが、誠実さをアピールするのが狙いになっています。逆に堅いイメージとなった感もありますが、そこは医療なので良い方向に傾くと信じております。このように潜在的に書体でイメージを判断されてしまうこともあるでしょうから、書体一つにも気をつかうべきでしょう。
医療はサービス業?
私ははっきりとそう自覚しております。皆さんはいかがでしょうか? とある同業者同士の席で、私のこの考え方を主張したら笑われました。 私よりも10歳以上年上の先生達には、どうも違和感があるようです。 ということはこの10年で、医療の形態が大きく変わったのだと思われます。 逆に若き歯科医師はどう思われるでしょうか?サービス業と言っても「お客様は神様・・・」的な発想ではありません。それは商人の考え方です。ただ少しだけ通じる点があります。それは「顧客満足度(CS)」です。
「NECフィールディング株式会社」をご存じでしょうか?21世紀型のサービス産業とそのあり方を自らの経営の中で体現していこうという信念と確信を持ち「CSナンバー1」という高い顧客からの評価を得て高い実績を得ている「ITサービスプロバイダー」会社です。同社の今なお進化する挑戦を記した出版物から一部抜粋すると
「今日の社会は、20世紀の二次産業を中心とした社会から明らかに情報化社会へ移行してきている。モノに対して付加価値をつけていこうという二次産業の割合が減少し、人が人にサービスを提供し、付加価値を作り上げていくという新しい社会構造にシフトしていくだろうと予見されるのである・・・(略)」
この流れを掴んでいる歯科医師は果たしてどれほどいるだろうか?
私はこの出版物をすでに読破しましたが、そこには「成功企業の経営モデル」ではなく、「企業のあるべき経営モデル」が記されておりました。もっともだと納得する内容ばかりでした。詳細は内容が濃すぎて言えませんが、歯科業界にも十分に応用できるものだと思い、出来ることからさっそく応用するようにしております。
「サービス向上による集患」を目的とした経営セミナーでも間違ったとらえ方をしている講師が大勢います。あくまでもセミナーは、参加していいと思う面だけを取り入れて下さい。決して何でも鵜呑みにしてはいけません。
その例として「待合い室に夏場は冷えた麦茶を置きましょう」などと言っている事があります。堂々と本にしている方もおられます。他院との差別化を図る意味では、いいアイデアかもしれませんが、ただそれだけのこと。私の考えでは、「サービス業」をはき違えた典型例だと思っております。これで患者さんの満足度は上がると思いますか?私は直接は結びつかないと思っています。ホワイトニングや漂白(ブリーチング)目的の患者さんには、コーヒーやお茶類を処置期間中には控えていただくことがあります。患者さんの中には、ホワイトニングじゃなくても、「歯の表面に付いた茶渋を取って欲しい」と来院される方もおられます。それにも拘わらず、お茶を準備する歯科医院とは何事でしょうか?下手をすれば治療目的と逆の行為だと思いませんか?
それよりも、待合室のブラッシングコーナーに、歯周病菌に対する殺菌効果やミントの香りのする含嗽剤を自由に使えるようにした方が、いいと思います。口臭を気にしている方はもちろん、これから治療を受けるにあたってのエチケットとして利用されるのもいいでしょう。さらに、治療後に人と会う予定の方も、歯科独特の治療後の苦みを取り除く上でも利用できますし、私はこちらの方が、わずかであるが満足度につながると思います。
先ほども述べましたが、「人が人にサービスを提供して、付加価値を作り上げていくこと。」これが「CSの向上」につながります。これが今求められる医院の形態であるならば、主訴に対する治療によって、満足度を上げる努力が必要です。もっと突っ込むならば、症状に対する原因と治療法の選択、治療により予想される一時的な症状の内容の説明、治癒前後における予防、将来起こりうる症状の予測説明、治療終了後のメンテナンスとフォロー体制の確立、保険外ホテツ物の保証期間、etc.これらにつきると思われます。「何、別に普通の事じゃないか?」って思われる方もいるかもしれませんが、これで患者さんの満足度を向上させるのは、かなり難しいと私は思っています。(自己満足だけを向上させている先生はいませんか?)なぜなら、これらがソフト面であるならば、ハード面での設備の充実具合はまだまだ、各診療所では浸透していないからです。設備面での限界は、治療説明への限界につながります。例えば2×3㎝の小さなレントゲン写真を患者さんに見せて、説明したところで、納得が得られやすいでしょうか?それよりも画面いっぱいにレントゲンを映し出して、必要に応じてさらに拡大し、その上で図示もして説明した方がよっぽど納得が得られるのです。しかも前者の方法は、エックス線被爆量も大きく、後者よりも生体にいいとは言えません。(当院では被爆量が7分の1である後者の方法であるにもかかわらず、さらに防護衣を着用してもらってレントゲン撮影をしています。そこまで気を遣っております。)
今や医院のデジタル化は必要不可欠です。設備投資は多額になりますが、「NECフィールディング株式会社」から学んだ、21世紀のサービス業を歯科業界に取り入れて、患者さんの満足度を向上させるような歯科医師になってもらいたいと思っております。
先に「サービス業」だと言う発言に笑った先生方には申し訳ありませんが、最後は時代に即した医院のみが生き残っていくことでしょう。
逃げ場を作っていますか?
変なタイトルですが、常日頃から重要だと感じていることを述べたいと思います。初診時には一般的に問診票を記入してもらいますが、不親切な問診票では、症状のみに丸を付けるといったものがあり、患者さんの言葉で具体的に「○○をして欲しい」と言った記入欄(空欄)をもうけていない場合があります。この時点で、患者さんの発言を制限していることになり、患者本位とは必ずしも言えないですよね。こういう問診票一つで診療所は術者本意なのか患者本位なのか、評価されてしまいます。たとえば「ぐらぐらの乳歯を抜いて欲しい」とか「歯石を取って欲しい」など具体的に患者さんの希望する主訴や希望を書く欄をもうけることが先ずは患者本位の医院だと理解される第一歩です。{「何も中で直接話せば先生に伝わるからいいじゃないか?」と考える方もいるとは思いますが、当院のアンケート結果では、「私(患者さん)は、言葉で症状を伝えるのが苦手な方だ。」と言う欄に印を付けている方も多く見受けられるため、ここは配慮してあげる方がよりいいと考えております。}
当院の問診票には、「仕事の都合により、何曜と何曜の何時頃しか通院できません。」「歯科恐怖症です。」などと症状やこちらが行う処置内容には直接関係のない(処置対応にはかなり気をつけるべき事が多くなるが・・・)ことまでもしっかりと自分の訴えとして記入している方も多く見受けられます。
さて、初診時にあれこれと検査を行って、診断をした結果を患者さんに説明します。ここで、麻酔ならびに必要材料や器具等の準備をスタッフに指示し、いきなり処置に入ろうとしていませんか?
本日その処置を行うという確認はしていますか?患者さんの納得と同意は絶対に得られていると言えますか?
確かに説明も処置内容も確認はしましたが、この後すぐ処置に入ると言う事は確認していますか?
患者さんの周囲で器具の準備ばかりがどんどん整ってしまい、患者さんが今さら「あの・・・処置は次回からにして欲しいのですが・・・。」と言う言葉を言えなくはしていませんか?
問診票の内容から、具体的に「歯石を取って欲しい。」とか、「グラグラした乳歯を抜いて欲しい。」と言った内容が確認されていればいいのでしょうけれども、そうでない場合、時には診断の結果、処置内容としては抜歯というケースもあります。抜歯した場合抜いた箇所がどうなる(どう補う)のか、知った上で抜歯後の処置内容について選択肢を説明し、そこで初めて「本日はどうされますか?」とすべきであると考えます。もしかしたら、何となくこの院長とは馬が合わなそうと思ったり、もうちょっと考えてから処置をしたいと思ったり、今後は、他院で「セカンドオピニオン」を求める場合もあり得るでしょう。その日に治療をすべきか、他院での診断をさらに求めるかは、これは患者さんの権利なのです。我々が決めるべき事ではないのです。仮に急性症状で、苦痛を取り除くため、今日のうちに処置が必要であれば、それは納得してもらえるはずです。これでも場合によっては、薬で症状を落ち着かせてから処置を行った方がいい場合だってあります。
私も処置内容によっては、「以上が当院での診断と処置方針になりますので、どういたしますか?」「さっそく処置に入ってかまわないですか?」「(場合にもよるが)幸い症状が落ち着いていますので、一度お家に帰ってから再度よく考えて決めても構いませんよ。」等の言葉を申し上げ、患者さんに一種の「逃げ道」を作ることにしております。これが面白いことに返事がまちまちです。「分かってはいたけれども、心の準備が追いつかないので、次回気持ちを整理してから処置を受けてもいいですか?」と言い、レントゲン画像を印刷した紙を持って初回は帰宅する方もいれば、「今日のうちに始めて下さい。」と言う方もいて、人それぞれ違うのだなあと実感する毎日です。
患者さんが、処置を次回以降にすることを希望された場合、次回の予約までに予想されることはいかなる事でも伝え、「万が一急性症状が出た場合には・・・連絡を下さい。」と言ったフォローの姿勢も大事だと考えます。
さて主訴となる歯牙の治療が終了したとしましょう。ここで他に現時点で治療すべき歯があるかどうか、(初診時にある程度触れてておくことが望ましいが、再度確認して、お伝えするべきでしょう。)診査結果を伝えねばなりません。もちろん現時点では処置の必要のないものもお伝えすべきでしょう。
そしてまた話し合いが始まります。処置すべき歯があったとしても、希望されない方もいれば、これまた後日(時間がとれるようになってからとか、雪が溶けてから・・・etc.)という方もいます。我々は現状や将来起こりうる可能性を伝え、患者さんはそれらを理解した上で、次に進むかを決める決定権があることを忘れてはいけません。陥りやすい我々のミスは、治療の押し売りです。次々に悪いところを指摘し、どんどん治療を進めていきます。このやり方は危険だと私は思います。せっかく主訴部分を気持ちよく終了しても、その後の対応次第では、せっかく築き上げた信頼関係を台無しになってしまうか可能性だってあります。当院では、口腔内カメラを駆使し、カラー写真で現状を視覚的に理解していただき、現状放置による悪影響を伝え、次に進むこともあれば、現時点で処置が不要であったり、治療を中断されることを希望された場合、「今後・・・と言うような(専門家から見た今後予想される初期症状)症状が出た際には、すぐに連絡を下さい。」と言うように伝える場合もあります。後者は一種の患者さんの逃げ道です。治療の必要な歯を見逃すとか、見過ごすとはちょっと意味が違うと考えています。治療の決定権を患者さんに託すのです。何でも「先生にお任せします。」と言う患者さんはいまだに存在しますが、今後、患者さんの権利がますます強調される時代になるはずです。これに対応できるようなシステム作りは現時点から始めるべきだと私は考えています。
また特に新規開業の診療所においては、激戦の中で毎日必至に治療をして、高い評価を得ようと努力するのはいいのですが、せっかく来院した患者さんを手放したくないという考えから、悪いと思われるところはどんどん治療を進めていくという傾向に陥りがちです。これは絶対に避けた方がいいと思います。気持ちは分からなくもなく、私もどんどん患者さんが増えたり、自院の患者さんをなるべく長く担当したいと考えていますが、上述のように逃げ場を作るように、一処置ごと確認するようにしております。もちろん一歯だけでなく一口腔単位で治療を考えなくてはならない場合もありますが、その際は患者さんが治療目標を見失わないように、時々再確認の上で次に進むようにしております。
最後に、「この治療の必要な歯を放置した場合将来こうなるなあ・・・。」と予測する能力は、養わなくてなりません。この能力が術者サイドにあると、たとえ患者さんが次の歯の処置を希望しなくても、しっかりと予想し内容を伝え、症状が出た際のフォロー体制を作っていることで、その患者さんはかなりの確率で再来院してくれます。そして患者さんは来院するなり「先生が以前おっしゃっていた通りになった!」とまるで、予言者を見るような目をします。これでまた患者-術者間の信頼関係のレベルは上がるはずです。
私の考えがすべて正しいとは思いませんが、これらの考え方は、私の診療に対する信念の一つといえます。
-------->第2編へ続く