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6⏋の1歯欠損に対する補綴
〜臨床経験26年の歯科医師が出した答えとは〜 「北海道大学歯学部第2補綴同門会誌」投稿記事*・著者:長内歯科新川診療所 長内 則夫 |
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*同業向け記事なので、専門用語の羅列をお許しください。 早いもので2023年9月1日に当院は開院20周年を迎えた。歯科医師としては27年目になった。この間、多くの治療に携わってきたが、私の20年はほぼ、ペリオと咬合性外傷との戦いだったといえる。そして自分(歯科医師)のやっていることに対して時に矛盾を感じ、本当に正しいのかどうかわからないまま日々ユニットに向かっている。それ自体が私のストレスになっているせいか、私は20周年を迎えるとほぼ同時に6⏋を失った。 「6⏋に咬合痛が生じ76⏋間頬側歯肉が突然腫れてきた」 私の6⏋には生活歯のカリエスを治療したゴールドアンレーが入っていた。子供の頃に咬合面インレーを入れて、その後何度か隣接歯質が欠けて、開業後に自分で2回ほどやり直した。(当院のユニット(モリタPOS)は、患者さんをおこしたあと水平に回転できるため、ユニットに触った状態で正面のでかい鏡に向かい下顎くらいなら自分で処置が可能なのだ。) ちょうど20周年を過ぎたあたりに歯肉が腫れて咬合痛が出てきたのだ。 「誤診に続く誤診と麻酔が効きにくい体質」 はじめは咬合性外傷から来るものだと思い、タフトブラシで一生懸命磨いた。さらにアンレー体を削合して咬合を落とした。一時的に咬合痛は解消したが、抗生物質を飲んでミノサイクリンをポケットに注入しても腫れが引いてこない。それどころか1週間もすると顔の方まで腫れてきて、左顔面全体が痛くなってきた。レントゲン的には根尖病巣はないが、Perったのかもしれないと思い、電気歯髄診をしてみた。当然無反応と思いきや、生活歯反応があった。これで完全にわからなくなった。その後も痛みは続き、頓服も効かない。さらに数日苦しんだ後やっと診療が早く終わった日があったので、除冠して中を見てみようと思った。ここでさらなる問題が。私の下顎臼歯部は麻酔が効きにくい。というか効かない。研修医の時に埋伏の8番を口腔外科で抜いてもらった際も、伝麻浸麻とも効きが鈍く、思いっきり手を握って耐え半泣きで処置を受けたくらいだ。下顎の処置を知人に頼んでも、頼まれた方が気の毒である。ほかの患者さんのいる前で患者としての私が「痛い痛い」を連呼すれば、それは営業妨害になりかねない。だから自分でやるしかないのだ。この日も自分で伝麻と浸麻を行い、削合の振動で痛いながらも除冠をした。 「まさかの歯根破折」 レントゲンではわからなかった。しかし除冠をしたら歯肉縁下5ミリ以上の遠心歯根がアンレーにくっついたまま抜けたのだ。とてもじゃないが保存できそうもない。近心根を残すかの選択をその場で迫られた。保存なら近心根を抜随して⑦6⑥⏋Br.なのだろうけど、ポンティックにかかる負担を近心根が耐えられるはずがない。ましてや生活歯の遠心根が割れたくらいなのだから。それに破折でこんなに苦しい思いをするのは二度と御免である。10分ほど考えたが、出した結論は6⏋そのものの抜歯だ。ヘーベルをかけるたびに激痛が走る。でも「自分の間(ま)」でなら一瞬は耐えられる。一発で脱臼させるために歯根分離し、周辺の歯槽骨を削除してヘーベルの引っかかりがいいようにした。失神寸前の痛みを近遠心で2回耐えようやく抜歯が完了した。 「次なる試練」 抜歯後3週間もすると創傷もだいぶ良くなった。歯が27本になるとこんな感じなのかと多少患者さんの気持ちがわかってきた。と同時に5⏋でよく舌を噛む。75⏋にHys症状が出るようになった。食事中に食物が欠損部に当たると凄く痛い。上から指で押しても痛い。もともとPで失ったわけではないので、歯根周囲の歯槽骨が一部鋭利になっていて、すでに新たな歯肉が覆ってはいたが食渣が当たると痛いのだ。抜歯後に触診はしていたが、この程度でも痛みが残るのかと初めて気づかされた。こうなるともうまた自分で歯槽骨を成形するしかない。もう痛いのはいやなので、平坦になるくらい削合した。 2週間後には、食渣による歯肉の痛みも消えいよいよ補綴へと移行する時期になった。 「メインテーマ 私の選択とは?」 6⏋1歯欠損について、いくつかの補綴方法がある。 今回の鍵は、咬合性外傷で生活歯の歯根が折れたという点。7⏋もアンレーが入っている。5⏋は健全歯である。対合歯は⎿67咬合面に小さめのインレーが入っている。ということだ。 卒後間もない若い頃ならブリッジを選択したと思う。そういう選択をした患者さんにもこの20年間そうしてきた。でも私に適用した場合、接着ブリッジならすぐに脱離するだろう。75⏋を全部被覆形態にするのは抵抗がある。そもそも咬合性外傷を生じて失った6⏋への圧が、75⏋に分散されるだけである。支台歯の予後が悪くなることぐらい、今までの経験上容易に想像がつく。 ではインプラントはどうだ?同業の友人に抜歯の話をしたら、インプラントしてあげるよと多くの声をいただいた。そりゃガッチリ噛めるだろう。おそらく骨量としても問題ないので適用症例だと思う。しかし不安点が二つ。一つは対合が負けてしまわないか?補綴をしても噛んでいる人間は同じだ。今度は対合歯が壊れていくだろう。もう一点は、衛生管理だ。70代前半で亡くなった父(歯科医師ではない)は、脳出血で1年近く寝たきりだった。言葉も発することができない。私が誰かもわからない。お見舞いに行ったが口腔内の管理なんてなされていない。自分の先々の人生はわからないが、衛生管理が自分でできない状態になったとき、インプラントほど危険な口腔内の異物/感染源はないと私は思っている。 残った選択肢は「何もしない」か「部分義歯」となったが、前者で感じた不便さは解消したいので実質残った選択肢は「部分義歯」である。 「クラスプデンチャーとノンクラスプデンチャー」 部分義歯という選択をしたが、クラスプデンチャーにするつもりはなかった。基本的にはブリッジに近く、支台氏への負担がやはり大きく乗っかってくると思われるからだ。 そこでノンクラスプデンチャーを選択したのだが、今は(外部リンク--->)「コンフォートソケット」という従来のノンクラスプデンチャーの粘膜と接する部分にシリコンが張ってある義歯がある。比較的新しい義歯だが、これを自分に試そうという実験的な要素もあって選択をした。 印象を出して2週間後に完成されて納品される。 外部リンク--->コンフォートソケット対応・歯科医院(札幌市北区) 「使い心地」 完成後ほぼ無調整(側方運動時の干渉を取り除く咬合調整のみ。)で装着。 毎朝感じるのは、夜間のクレンチングがひどい私の場合、義歯を入れると歯がかなり押されて時には痛い。5分もすれば全く感じないのだが、これはきっとクラスプデンチャーでも患者さんが同じように感じることもあるのかと思う。食事では歯ごたえのあるものを噛めば、シリコンが欠損歯肉をかなり圧迫するが、シリコンなので痛くない。歯がゆいというか「歯ぐきがゆい(笑)」。そして装着感であるが、昆布が歯ぐきにずっと張り付いているような感じである。クラスプではないので、変な凹凸もなく直ぐに慣れた。以前コンタクトレンズを使用していたことのある私にとっては、手入れ等を含めてさほど面倒ではないと感じた。 反対側臼歯部は健在なので、うまくかみ分ければ食事に対する不便さも最低限で済んでいるかと思う。 「義歯には抵抗あれど」 50代前半で義歯。それには正直抵抗がある。まして職業は歯科医師である。 でも一緒にお風呂に入ってくれている小学一年の娘が、「パパ入れ歯出して」といって、渡すとまずは匂いを嗅ぎ、顔をしかめた後にお風呂場のままごとセットで洗濯をするかのように一生懸命洗ってくれる。父娘のコミュニケーションにも一役かっているのだ。 さらに自らの体験を患者さんの治療にフィードバックしやすくなった。義歯を使用していないのに患者さんに義歯を入れ、不都合部分を調整する。26年間患者さんから学びながら経験で対応してきた。でも今は使用者だ。これはこの先の歯科医師人生にとっても大きな経験になると思う。 「矛盾との戦い」 私は歯科医師として患者さんが噛めるようにすること、これがメインの仕事になるものだと思っていた。しかし、ペリオや咬合性外傷で歯を失うような場面を目の当たりにすると、まだペリオ単独なら手強いにせよ患者さんと一緒に予防に努め、治療である程度健康を取り戻すことが可能にもなるのだが、後者が絡んでくると抜歯という結果でかなりの割合敗北感を感じる。後者は、噛まない歯を使わない、これこそが長持ちの秘訣だからである。綺麗に3点接触させた6番のFMCがセット後早々に(咬合痛で)痛くて来院したケースはなかろうか?パーシャルデンチャーのクラスプをかけた支台歯がどんどん失われ「すれ違い咬合」になっていく様を目の当たりにしてきてはいないだろうか?それは本当に予測して防げなかったのだろうか?私が今戦っているのは、このあたりまで予測した予防である。 歯は必ずすり減る。すり減るということは低くなるし形態が変わる。咬合も変化する。しかし我々がすり減らない補綴物をセットするのは、その日のその瞬間の咬合である。補綴物を長持ちさせようと思ったら、咬合圧負担を減らす努力(教え)が必要であり、それでも経時的に咬耗等で変化する咬合に常にマッチするようにすり減らない補綴物を症状が出てしまう前に咬合調整し続けなくてはならないのである。予防といえばブラッシングやクリーニングだと思うのだが、それは基礎部分であって長持ちの大前提にはなるのだが、実は上記のような予防こそが、歯を長持ちさせるのに不可欠なのだ。日中のクレンチング、1回の咀嚼力をかけ過ぎない適度な咀嚼圧とゆったりとした食事。夜間のブラキシズムやクレンチングあれば、その強さを診断して、必要に応じてナイトガードが必要かもしれない。たとえ初診でも脱離や破折があれば、口腔内の状況によっては咬合性外傷を疑うケースもあるかもしれない。脱離や歯冠破折程度で済んだに過ぎないのかもしれない。そんな中で我々は今後も補綴し続けなくてはならない。間違ってはいけないのは、補綴によって以前より噛めるようになったと患者さんに喜ばれる場面があるが、脱離冠のやり替え程度でない限りはどう考えてもほとんどの場合で以前よりも悪条件(削合や欠損)で補綴されていることだ。「それは良かったですね。これで治療が終わりましたのでまた何かあれば・・・」ではない。われわれはその「何か」を生じさせる要因を作って患者さんを帰しているのだ。将来生じる咬合性外傷から患者さんの歯を守る、長期予後を保証するのも歯科医師の仕事だと私は強く思う。自分の6⏋を失ってさらに強く感じるようになった。 「ベテラン歯科医師と若手の歯科医師」 自分は自称中堅の分類に属していると思う。中堅や若手の同業と飲むことがあっても、あんまり臨床の話はしない。私のような話はうさん臭がられるのだ。若手は流行り物の勉強会に参加してそれがあたかも自分のスキルアップになっているかのような話を自慢し合う。中堅どうしだと「先生真面目だな〜」で終わってしまうのだ。 しかしベテランは違う。自分の方向性が正しいのか分からなくなってしまったとき、私は思いきって大畑名誉教授にメールをして考えをぶつけてみた。それに対して、先生はとても丁寧に返答を返して下さった。「噛ませるように治療するのが歯科医師なのか?噛むなと教育指導することが歯科医師なのか?」本当に分からなくなってしまった時期だった。先生からのメールの返答で少し気が楽になった。大ベテランはさすがにいい答えを持っているのだ。 また恩師白鳥先生との臨床話はとても勉強になる。自分の臨床経験の倍経験がある。しかもそれをほぼ保険治療のみで対応してきているのだ。患者さんもしっかりとついてきている。ためにならないわけがない。私からすると、高いセミナー代を払って答えを探し続けるよりも、互いに記憶が飛ぶくらいお酒が飲めるうえに時にはごちそうにまでなれる無料プレミアセミナーだと思っている。医院継承は無理な話であっても、臨床に対する意思は継承していきたいと思っている。 「最後に」 開業以来20年、ほぼ一人で考え悩んで今に至る。 咬合性外傷は本当に手強い壁だ。歯に来る人、歯周組織に来る人、顎関節や咀嚼筋群に来る人、偏頭痛になる人、心まで病んでしまっているのではないかと思えるような人、多種多様でアプローチ方法も違う。ましてやそれを予防できないかと考えている私は、自分がやられてしまった。開業人生が折り返しだとすれば、もう20年これとは向き合わねばならない。補綴なんかするからおかしくなるんだ。必要以上に噛むからこんなことになるんだ。でも歯科医師だから治療をしなくてはならない。この矛盾で歯科医師なんてやめて逃げ出したくなる日々がもう20年続くのかと思うとゾッとするが、少なくても自分が担当する限りは守り抜く義務がある。私の話はあくまで経験上の話なので、決してアカデミックな要素はない。それでもこのような機会を与えてくださった稲田純一先生と第二補綴学教室同門会にはあらためて感謝申しあげたい。本当にありがとうございました。 |
乳歯が揃ったら、必ずフロスを! |
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一般的に3才頃には乳歯が生えそろいます(個人差があり多少前後しますので、3才で揃っていなくてもしばらく様子を見て下さい)。ここで、気をつけなくてはならないのが、「奥歯二本の間の虫歯」です。適度にこの二本が離れていればいいのですが、ほとんどのお子さんの歯は接しています。見た目は接していても、そのすぐ下(つまり根の近く)には、大きな隙間が存在しています。そこは歯ぐきで埋まっているので、空いているような感じは見た目上、ほとんどありません。乳臼歯(乳歯の奥歯二本の総称)は、噛む面が大きい割に、根元は大きくくびれ、そして根が広く開いているため、このような大きな隙間が存在するのです。 実はこの部分が虫歯の好発部位になってしまうのです。当然、歯が接していますから、歯ブラシで間の汚れを取りきることは出来ません。しかも見えない部分の隙間なので、汚れが詰まっているかも分かりません。 (ここの清掃は、フロスや糸ようじと言われる補助清掃具を用いなければ汚れが取りきれません。正しい使い方は歯科医院にご相談下さい。) また幼稚園や保育園、3歳児検診と言った集団検診でも、見つけにくい部分でもあるので、かかりつけの歯科医院での精査が必要だという認識を持って下さい。かかりつけの歯科医院で精査をしていても、乳歯のカリエスの進行は早いので、半年ごとでは間隔が開きすぎというケースも多々あります。歯科医院で指定された検診期間をなるべく守ることが大切です。 実際に当院で治療が必要なお子さんは、乳臼歯二本の間というケースが大変多いです。また間の虫歯の場合は、二本とも虫歯というケースが大半を占めます。 ※上図で言えば、乳臼歯は上下左右に存在する奥二本で、その間がカリエス好発部位となります。歯と根の境目が非常にくびれているのがおわかりいただけると思います。 予防法については、補助清掃具が必要と先にお話ししましたが、当院での具体的な治療法についてお話しさせていただきます。 表面のエナメル質にとどまる小さい虫歯であれば、予防法をお伝えし、経過観察とするケースが多く、エナメル質を破って中の象牙質に進入しつつある段階なら、今後一気に進行する可能性があるため治療致します。削る穴が小さければ、麻酔なしで削り、レジンと言われるプラスチックの白い詰め物をして1回で終わります。 ただし、よほどまじめに検診で通院し続けていない限り、このようなケースは稀です。 ほとんどのケースでは、すでに象牙質内まで虫歯が広く進行し、麻酔をして削らなければならない段階になっています。削った部分が、神経に至る前であれば、当院ではなるべく銀歯にします。つまり1回目の処置で型取りまで行い、2回目の処置で部分銀歯をはめます。神経が虫歯に冒されていなければ、非常に古典的な処置方法かもしれませんが、私はこれがベストだと考えます。同じ治し方でも、先に述べたようにレジンを詰める方法もございます。ただしこれには欠点がいくつかあります。 銀歯だと、咬む面を含めて広く削らなくてはならないというのが欠点ですが、それ以上に見た目を気にする保護者が多いのが現実です。白い詰め物であれば目立たず、一見処置跡がないようにも仕上げられ、非常に喜ばれます。ただし欠点として、詰め物が外れやすい、そして私が最も致命的だと考えるのは、適合です。削る前の歯の形態にいかに近づけ、再発を防止するかというのが大目標であることを忘れてはいけません。再発は簡単に起こります。なぜなら、元々そこは好発部位だからです。好発部位だからこそカリエスが生じました。治療をしても好発部位であることに変わりはありません。ならば、予防しやすい環境にしなければ治療とは言えません。白い詰め物は、小児の狭い口腔内で歯科医師や指示を受けた歯科衛生士が詰めます。見える部分の適合は確認できても、歯ぐきの下に隠れてしまう部分の適合は絶対に確認出来ません。これはいくら熟練した先生でも、不可能だと思って下さい。ただし見えるところは非常にきれいに仕上がっているため、保護者の方も満足してしまいがちです。 結局、見えない部分の不適合が存在し、磨き残しが生じます。 乳歯の場合は、あっと言う間に虫歯がそこから再発します。 削って埋めてしまうのが目的で、再発防止を目的としない処置は、個人的には反対です。自分の子供にもして欲しくない処置だと私は思います。 他院で詰め物をして、再発してから当院を受診するケースも多々ありますが、その詰め物を見て、上手い治療跡だと感じたことは一度もありません。 つまり不適合部分が必ずあると言うことなのです。不適合部分は、プラークと言っても実際は目に見えない細菌が繁殖します。細菌はとても小さい物なので、不適合部分は細菌にとって大きな隙間となってしまうのです。 その点、部分銀歯は型取りを行い、技工士さんに作製して貰うため、隅々まで適合が模型上で確認できます。またそれをフッ素の配合されたセメントでつけるので、虫歯の再発防止につながります。 どちらでもしっかりと虫歯を取り除けば、虫歯の再発は、遅らせられますが、不適合な状態で白い詰め物をしてしまえば、今度は歯ぐきが腫れやすくなります。同じプラークの付着が原因でも、次に生じやすいのは歯肉炎ですね。 昨年私は歯科激戦区の大阪で開院している後輩とこの辺について議論したことがあります。 実際にその先生は、レジン(白いプラスチック)を詰めていました。銀歯の方が良いと分かっていてもレジンを詰める処置を行っていました。その理由は、お母さんたちに嫌われたくないから。近隣の歯科医院では白いので詰めてくれて1回で終わるのに、ここでは銀歯だし2回も通院しなくてはならないと言う悪い評判が怖かったそうです。確かに評判として白いのを1回で詰めてもらえるという内容の方が聞こえはいいですよね! 歯科を取り巻く環境が後輩を変えてしまったようです。案の定、詰めた物がすぐに取れたり、詰めた部分の虫歯の再発で苦悩していました。 それでも丁寧に詰めていれば、それなりに再発は防げるのですが、歯科用接着剤でとめる銀歯よりは脱離する頻度が高いと思います。 一度で終わり、白くして治せるという一見聞こえのいい評判を得た医院が、次に恐れる評判は、簡単に外れてしまったという悪評です。それを解決しようとしてタブーを犯す処置跡をよく目にします。奥二本の間の虫歯を削り、何と二本まとめて埋めてしまうのです。もちろんそれぞれを分けて埋めていないので、レジンを介して二本の歯は、つながってしまいます。こうなるともうそこには二度とフロスが通せません。しかも詰めた下の部分が再度虫歯になっても、気がつきません。そして何より、間を完全に埋めるように詰めてしまえば、酸素の嫌いな歯周病菌が一気に繁殖し、歯ぐきが腫れます。素人さんでもおわかりかと思いますが、いずれ生え替わる時期が異なる乳歯二本をつなぎとめてしまって良いわけがないとお気づきでしょう。 嘘かもしれませんが結構多く見られる治療跡です。 もうこうなると歯科医師としての倫理が問われる処置です。 ちなみに、一生懸命二本をそれぞれ綺麗に詰めようと、丁寧な治療をしても、上記のような雑な治療をしても患者さんからいただく治療費は同じです。 (この場合、脱離しやすいのは、正直前者です。) 何か考えがあってつなげているのならば保護者の方にきちんと説明した上で、納得が得られた場合に行うべきであって、すべてのケースでその説明がされていないのが事実です。 もっとひどいケースでは、虫歯も完全に取り切っていないまま、つなげてレジンを詰めているというケースです。嘘かもしれませんが実際にあったケースです。保護者の方からの問診内容によると、この場合は、麻酔を行っていません。 幼児に麻酔をして、いやがられて治療が出来なくなる。それを嫌ったとしか思えません。従って痛くならない程度に虫歯を浅く削って、深い虫歯を残したまま埋めているのでしょう(実際にそうした処置跡をよく目にします。)。保護者の方も、お子さんが泣かずに治療が出来たし、虫歯も治してもらったと安心して帰ることでしょう。もしかしたら一見聞こえの良い評判を周りのお母さんたちに話しているかもしれませんね。もしもその評判を信用して、知り合いのお母さんがお子さんを連れて同じような処置を受けてしまったら、その評判を広めてしまったお母さんは、どう責任を取るのでしょうか? ちょっと話が脱線してしまいましたが、実際にあるケースなので、大事なお子さんの歯を守ろうと思ったら、最低限このような知識を持って、治療を受けていただきたいと思います。また受けっ放しにするのではなく、処置後の再発防止は親の役目ですのでお忘れなく。 虫歯にしてしまったことを大いに反省し、ブラッシング方法の見直しや生活習慣の見直しを含め、保護者がお子さんの虫歯の再発防止をすることで、初めて治療の意味が出てくると私は思います。 |
突然何でもない歯が割れた。 |
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私は過去に、かみしめ、歯ぎしり、かぶせもの、歯のすり減りと言ったキーワードをテーマに、HP上で皆さんに情報提供を行ってきました。 同じようなことなのですが、今年に入って3件ほど何ら処置跡や虫歯もない天然の歯が、ほぼ半分くらいに割れてしまったと言う理由で来院されたケースがありました。 今までは、差し歯の根が折れたとか、かぶせものが外れたとか、咬むと痛いとか、そういた症状を例に挙げることが多かったのですが、天然の歯が折れるというケースに遭遇しましたので報告致します。 歯にかかる噛み圧というのは、改めて恐ろしいと感じました。 最近では、認知症予防によく咬むことを推奨したり、歯列不正防止や顎の発達のために子供によく咬むように指導したり、日頃からよく咬むことを推奨する記事や専門家の意見をよく見たり聞いたりします。ガムがいいだとか、30回噛んで飲み込むとかって聞いたことはないでしょうか? 例えば歯周病で歯がぐらつくし、入れ歯も入っている年配の方々が、この情報を耳にしたら、どうなるでしょう? あっという間にぐらつきが大きくなり、入れ歯が痛くなり、歯医者のお世話になることでしょう。 また禁煙のためにガムを噛んでいる中年の方々が、もし歯周病に冒されていたらどうなるでしょう? 同じように歯がぐらつき、痛み出して歯医者のお世話になることでしょう。 マスコミの報道を信じるなとは言いません。自分はこのケースに当てはまるのか?かかりつけの歯科医院でしっかりと状態を説明してもらい、自分の歯が耐えられる範囲内でよく咬むようにすべきだと思います。 出来るだけ幼少期から歯肉炎や虫歯のない綺麗な歯並びで咬むことが将来的にもよく咬める強靱な歯や顎を育てると認識して下さい。 ある程度の年齢になって、すでに歯の神経を取る処置跡があったり銀歯が入っていたり、歯周病に知らず知らずのうちにかかっている状態で慌ててガンガン咬みだしたら、まあろくなことがないと言っておきます。 人の咬む力は、我々が考えている以上に強く歯にかかるようです。 自分の顎力で歯を壊さないようにしましょう。 |